2024年3月21日
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記事の作成者:動物応用科学科 塚田英晴先生
先々月の菊水先生のお話が、街中にある有名なハチ公像の話でした。今回は同じ街中つながりで、ある忘れ去られたトンネルの話をしましょう。
町田市の南端、横浜市と接するあたりの成瀬という場所に“かしの木山自然公園”という緑地があるのですが(図1)、その脇を通る市道(南450号線)の下には、おそらく日本で唯一のタヌキ専用のトンネルが作られています。「タヌキトンネル」と呼ばれ、公園から道路を挟んで反対側の緑地までをタヌキが安全に通れるようにと、1994年3月に設置されました(図2)。
トンネルが設置された当時、町田市では道路で車に轢かれて死亡する(ロードキルといいます)タヌキが目立つようになっていました。この事態を憂いた住民が1991年「たぬき実行委員会」を設立。交通事故死の実態とタヌキの生態を調べ始めました。その研究成果は学会やシンポジウムなどを通じて公表され、タヌキが安全に道路を横断できるような通路(正式には「ボックスカルバート」と呼びます)の設置が町田市に提案されたのです。幸いなことに、当時の市長が自然保護への関心が高い方だったため、その後押しもあり、「タヌキトンネル」の設置が実現しました。
トンネルが設置された直後に「たぬき実行委員会」がカメラなどを設置して調べたところ、タヌキがトンネルを使う様子が確認されました。しかし、このトンネルに人が近づいてタヌキが利用しなくなることを危惧し、あえて管理をしない方針が取られることになりました。そのため、このトンネルはいつしか忘れられてしまったのです。
私がこのトンネルを知ったのは、2014年12月に掲載された、ある新聞記事のおかげです。その新聞には、“存在が忘れ”られ、“タヌキがどれだけ通るかは不明”と書かれていました。ちょうどのこの頃、私は麻布大学へ赴任し、新たに中型食肉目動物の研究を始めようと考えていた矢先でした。「ならば調べてみよう!」と思いたち、ある学生さんの卒論研究として取り組むことになったのです。
まずはトンネルの入口に、動物が通ると写真や動画が撮れるセンサーカメラを設置して利用状況を確認しました。すると、タヌキがトンネルを利用していることが明らかとなりました(図3)。加えて、外来種のアライグマやハクビシン、ネコといった動物も、同じくトンネルを通っていることがわかりました(図4)。
また、トンネルがあるにもかかわらず、タヌキが道路上を横断する例があること、私たちが調査を始めてからも、相変わらずタヌキの交通事故がトンネルの真上の道路で発生していることもわかりました。
さらに別の学生さんにも研究を引き継いでもらい、継続して調査を進めたところ、道路横断時にトンネルを利用する割合はアライグマの方がタヌキよりも多く、アライグマのトンネル利用が減ると、タヌキのトンネル利用が増え、道路上を横断する割合の方は減ることが明らかとなりました。どうやら、トンネルの利用をめぐり、タヌキとアライグマは競合関係にあり、アライグマの利用がタヌキのトンネル利用を抑制していたようです。アライグマは特定外来種に指定され、生態系への被害が大きいことから駆除活動が進められている動物です。こんなところにまでアライグマの影響が及ぶことがわかったのです。
設置から20年以上を経て、タヌキをとりまく状況も様変わりしました。ロードキル対策から始まったタヌキの保全活動ですが、現在では、ロードキル対策に加えて、新たにアライグマという外来種対策の課題も浮き彫りになりました。野生動物を巡る状況は絶えず変化しており、これで終わりということはないようです。「タヌキトンネル」の再発見は、野生の実態を継続して調査することの大切さを私たちに教えてくれました。
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