歌学習の敏感期のメカニズム

戸張靖子(小鳥の歌の科学)、松井久実(生理第一)、橘亮輔(麻布大学 共同研究員、東京大学 進化認知科学研究センター)

研究の背景

幼い頃に学習能力が著しく高まる時期を「敏感期」と呼びます。ことばを喋ったり、楽器を演奏したりする運動技能の学習にも、敏感期があるようです。この運動技能の敏感期は、いつ、どのようにして終了するでしょうか。あるいは終了後にもう一度敏感期を再開することはできるのでしょうか。

アプローチ

ジュウシマツの歌学習は、ヒトの発話学習と共通点が多く、音声発達の仕組みを調べる上で重要な研究対象となっています。これまでの研究で、孵化後3カ月くらいの若いジュウシマツは、すでに成鳥と変わらないほぼ完成した歌をうたうものの、まだ歌を変える能力が残っていることが分かりました。一方、5カ月齢以降の個体ではこの能力はほとんど残っていませんでした。このことは、3か月齢から5か月齢の間に、運動技能の敏感期が終了することを示しています。

そこでこのプロジェクトでは、ジュウシマツの歌学習の敏感期がどのようにして終了するかを調べます。以下の3つを測定して、敏感期終了の因子を見つけ出します。

  • 歌を録音してその変化を探ります。
  • 内分泌変化を調べるために血中の各種ホルモン濃度を測定します。
  • 脳神経の変化を調べるために歌に関わる脳部位の遺伝子発現を測定します。

生体分子の定量解析は松井が、遺伝子発現解析は戸張が、音声分析は橘が、それぞれサポートします。定期的な研究進捗状況発表会を通してプレゼンテーション能力の向上と教員とのディスカッションを通じて論理的な思考力を身につけます。

期待される結果

私たちは、歌の音響的な変化と一緒に変化する血中ホルモンや脳内遺伝子があると考えています。これが見つかれば、敏感期を終了させる仕組みを紐解く助けになると期待しています。また、ヒトの発話学習との共通点が多いことから、ジュウシマツの歌学習の敏感期はヒトと同じメカニズムをもっている可能性があります。したがって、このメカニズムが分かれば、ヒト幼児の言語発達の理解につながるでしょう。また、演奏家やアスリートに適切な運動訓練方法を提供することにもつながるかもしれません。

現状とこれから

この研究プロジェクトはまだ始まったばかりです。過去の研究により、運動技能の敏感期が終了する時期が分かってきました。しかし敏感期を終了させる仕組みや、短縮したり延長したりできるかについては、分からないことだらけです。言い換えれば、研究をすればするだけ発見がある分野と言えます。このプロジェクトはヒトの発話の発達やパフォーマーの早期訓練の効果の解明にもつながりますから、世界でも注目度が高いことは間違いありません。すなわち、みなさんの研究は、最先端の発見につながるチャンスがたくさんあるのです。ぜひ一緒に研究しませんか。

募集について

募集人数:3名程度
求める学生像: 動物の行動を観察したり実験をすることが好きな学生さん。 教員や先輩にも自ら質問できる学生さんが望ましい。

研究詳細PDF
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