小手森綾香(食の情報・栄養疫学)、石原淳子(疫学・公衆栄養学)、中舘美佐子(公衆栄養学)、山本純平(食品機能学・食品分析学)
研究の背景
毎日、人はどれくらいのエネルギー、栄養素、その他健康にかかわる成分を食事から摂取しているのでしょうか。また、食事から摂った食品や食品成分は、本当に人の健康に影響を与えるのでしょうか。これを実証するのが、 ヒトを対象とした栄養疫学研究です。そして、栄養疫学研究の大きなカギとなるのが、 曝露情報( 何をどのくらい摂取しているか)を正確にとらえることです。
曝露情報の評価には、様々な方法があります。その一つである人体から採取した血液、尿、毛髪などの生体試料を用いた曝露情報の推定は、客観的であるという利点があります。一方、生体試料の分析には多額の費用がかかるという欠点もあります。私達は、様々な食事の曝露情報を反映する生体試料の分析値( バイオマーカー、生体指標)を用いて、簡便な食事評価方法の確立を行ったり、適切な研究デザインを組んで、健康との関わりを検証する栄養疫学研究を行っています。
アプローチ
- 食べ物と健康の因果関係についての仮説設定
公衆衛生上の課題解決の意義や、実験データ・生物学的妥当性の知見を考慮して仮説を設定し、ヒト研究のデザインを決定します。
- 曝露情報の収集
大規模なヒトの集団を対象に、生体試料や質問票、詳細な食事調査など様々な手段で曝露情報を収集します。食事摂取量だけでなく、曝露と結果の関連に影響を与える交絡要因(他の生活習慣の情報など)も収集します。
- データ分析
曝露を反映するバイオマーカーと自己申告の曝露情報を比較して、真の曝露量を追求します。また、バイオマーカーを用いた健康や疾患の関連を分析します。
期待される結果
- 食事曝露とバイオマーカーとの関連を解明
⇒ヒトの生体内での栄養学的な代謝動態などが解明され、研究の発展に貢献
⇒保健医療現場で、生体試料を用いて簡易的に食事の把握や改善に応用できる可能性
- ヒトの集団における食品や食品成分、食品中汚染物質の健康影響を解明
⇒食と疾病発生の因果関係の解明につながる研究成果
⇒公衆衛生の実践活動と、エビデンスに基づく政策立案( EBPM )に貢献
現状とこれから
- 発がん性物質であるアクリルアミドの食事由来曝露量を推定するため、赤血球を用いてヘモグロビン付加体を測定し、食事と健康との関係を調べる研究を行っています。
- 発がんに関わる微小炎症と食事の関係をとらえる食事評価指標を確立するために、血中の炎症マーカーを用いて統計学的な予測モデルを作成する研究を行っています。