研究プロジェクト2022

歌が上手になる栄養素の発見

戸張靖子(小鳥の歌の科学)、松井久美(生理第一)、白石純一(日本獣医生命科学大学・栄養生理学)

研究の背景

子どものころは、脳や身体の発育が盛んで、この時期の栄養の良否は、成長・発育・学習に大きく影響すると考えられます。臨界期とは、神経回路網の可塑性が一過的に高まる生後の限られた時期のことであり。脳の神経回路は、生後の経験により成長します。

視覚や聴覚などの感覚の機能や、母語の習得に関わる神経回路は、臨界期の経験によって集中的に形成されます。この臨界期に不可欠な栄養素はあるのでしょうか?あるいは、特定の栄養素が学習効果を高めることは出来るのでしょうか?

アプローチ

キンカチョウの歌学習は、ヒトの発話学習と共通点が多く、音声発達の仕組みを調べる上で重要な研究対象となっています。キンカチョウの幼鳥は、孵化後20日くらいから、親の歌のを聞き、真似するためのお手本として記憶しようとします。この歌の聴覚記憶が形成される期間は感覚学習期と呼ばれ,65日齢程で終わりを迎えて新たな歌の記憶を形成できなくなります。幼鳥は35日齢ほどでうたいはじめ、記憶したお手本に自らの音声パターンを近づけていきながら、自身の歌を上達させ90日齢頃にはお手本にした歌とそっくりな歌をうたうようになります。この学習過程を感覚運動学習期と呼びます。

そこでこのプロジェクトでは、キンカチョウの歌発達過程特異的に、以下の3つを測定して、歌学習に寄与する代謝成分の推定を行います。

  • 歌の録音や体重や翼長を測定して、キンカチョウの発達変化を記録します。
  • 血中のアミノ酸、ステロイドホルモン、低分子代謝産物等を測定します。
  • 脳神経の変化を調べるために歌に関わる脳部位の遺伝子発現を測定します。

生体分子の定量解析は松井と白石が、遺伝子発現解析や小鳥の発達解析は戸張がそれぞれサポートします。定期的な研究進捗状況発表会を通してプレゼンテーション能力の向上と教員とのディスカッションを通じて論理的な思考力を身につけます。

期待される結果

本プロジェクトでキンカチョウの歌学習時に必要な栄養素が明らかになれば、鳥の歌学習と共通点の多い、ヒトの発話学習期に適切な食事の提案や発達過程における不適切な栄養の偏りや過度な痩身志向を科学的に是正することにつながります。乳幼児期の臨界期を伴う学習と栄養素の関係を明らかすることを目的とする本プロジェクトは、幼児の言語発達研究に新たな展開をもたらすことが期待されます。また、歌の上達や良い声に関連する栄養素を特定することができるかもしれません。

現状とこれから

2005年に「食育基本法」が制定され、その前文には「食育を、生きるうえでの基本であって、知育、徳育および体育の基礎となるべきものと位置付ける」と記されてます。一方、発達過程における“栄養の偏り” が現在の小児の食生活上の問題として指摘されています。このような背景の下、幼少期の学習の臨界期における重要な栄養素の特定は多く人が切望していると考えられます。本研究は、キンカチョウの歌の発達過程における代謝産物を定量することで、国内外の研究に先駆けて「学習を支える栄養学」に着手するものです。

「2022年度 研究プロジェクト」に戻る >