発酵に使われるカビのルーツと発酵能の変化

小林直樹(食品安全・分子生物学)、齊藤千佳(食品分析化学)

研究の背景

発酵食品は微生物の働きで作り出される食品ですが、人間は微生物の存在を認識していないころからおいしい発酵食品を作ってきました。世界各国でその土地の風土に合った伝統的な発酵食品があり、日本でも味噌や醤油、納豆、漬物、鰹節など様々な発酵食品が食べられています。日本の発酵食品の特徴の一つは「麹菌」などに代表されるカビを利用した発酵食品が多く日本高温多湿な環境が影響しています。

とはいえ、カビであればなんでも利用できたわけではなく、⾧い歴史の中で人に有害ではなく、食品の発酵に有用であるカビが選ばれてきたのです。現在使われている菌株はどこから来てどのように広がったのでしょうか。その歴史を遺伝子レベルで紐解くことができないか、そんなチャレンジをしてみたいと思っています。

アプローチ

発酵に関わるカビの中で、まず焼酎の醸造に用いられる黒麹菌(Aspergillus luchuensis
やAspergillus foetidus )に着目して研究を進めます。焼酎醸造の方法や麹菌の伝来ルートには諸説あり、明らかにされていません。また、各地の醸造蔵で用いられる菌株には多様性があり、その形質、遺伝的特性、資化性に違いがあると考えられます。

日本各地および海外で発酵食品製造等に用いられる菌株を多数集め、これらの遺伝子配列を決定して分子系統学的解析を行うことで、進化の歴史を明らかにします。同時に、発酵能など資化性の比較を行うことで、ヒトがどのような目的で菌株を選択してきたかについて考察していきます。

期待される結果

日本の様々な発酵食品に用いられる菌株がどこから来たのか、どうやって広がったのか、その伝来ルートを明らかにすることができます。そして、発酵に使用される菌株が、近縁種に比べてどのような形質的な違いがあるのか、各地の焼酎の特質と菌株の形質にどのような関係があるかなどを明らかにすることができると考えます。また、微生物の基本的な扱い方、その性質の解析方法、そして遺伝子レベルの解析まで幅広い研究スキルを体得できます。

現状とこれから

焼酎の醸造に用いられている黒麹菌、Aspergillus luchuensis について、学外の研究機関との共同研究により、国内の様々な地域から菌株を多数分離し、保有しています。これの株について遺伝子レベルの解析と発酵能の解析を進めます。また、黒麹菌の近縁菌種にはカビ毒(フモニシンB2、FB2)を産生する菌種が存在するため、FB2の分析も並行して進めていきます。

募集について

募集人数:2名程度
連絡方法︓学内G-mail
求める学生像: 遺伝子レベルの解析に興味がある人で、コツコツ物事を進められる人に向いています。 収集癖がある人も楽しめるかもしれません。 連絡は小林まで気軽にどうぞ。

研究詳細PDF
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